今日は教員採用試験に今年も出題された「著作権に関する出題」についてお話しします。
この動画では解答・解説と併せて、どのようにすればできるのかということも併せてお伝えしています。
簡単に解答と解説だけ知りたいという方は「原口 直の一歩先ゆく音楽教育」チャンネルの中の「令和4年教員採用試験(東京都) 著作権分野の問題(解答・解説)」の動画で簡単に解説をしていますので、そちらをご覧下さい。
学習指導要領における知的財産権の扱い
どの教科・校種において知的財産権に言及されているか
学校でどのようなことを学ぶのか?教科別や項目別に書いてあるのが、この学習指導要領。10年に1度文部科学省が改訂をします。その中には、学校のそれぞれの校種・それぞれの学年で「どのようなことを教えるか」ということが書いてあり、これが教科書や今日お話しする教員採用試験のもととなっています。
小学校・中学校・高校の音楽の知的財産権に関する部分がこちらです。
(詳しくはYouTube動画をご覧ください。)
小学校では2020年度からの新しい学習指導要領で初めてこのような文章が載りました。
中学校では一つ前(10年前)の学習指導要領に一文だけだったのが、このように詳しく載るようになりましたし、知的財産権について触れることで音楽文化の継承や発展創造を支えている、つまり知的財産権を守ることで何につながっているかという意義も書かれるようになりました。
高校も同じように改訂されています。
著作権分野の教採出題傾向
出題傾向として著作権に関する問題は東京都の第1次選考の中の専門教養にあります。
教科は2つで、小・中共通と中・高共通の音楽の中に1問出題されています。また、高校の情報の中にも著作権や知的財産権に関する問題が出題されていました。
東京都についてはウェブ上に公開されていますので確認することができました。
他の都道府県では資料を取り寄せたり、取りに行かなければいけないというふうになっている都道府県もあって、全部確認しているわけではありません。また他の都道府県でも出題されているということの情報がアップされていたりするので、興味のある方は是非ご覧ください。
東京都の例について、この小・中共通の音楽と中・高共通の音楽では3年連続で著作権に関する問題が出題されました。
ここで著作権についてお話しするのは、すでに教員になっている方に「教採の勉強をまた改めてしましょう」と言っているわけではもちろんありません。
そうではなくて、「著作権の知識を持っている音楽の先生がこれから学校に入ってきますよ」「著作権のことは当たり前に知って入ってくるんですよ」ということを注意喚起したいということです。
学校で行われている著作物の扱いについて「大丈夫かな?」とか「それダメですよ!」という判断が出来る人が入ってくるのです。ぜひそれを知っておいてください。
学校著作権のルール(原則と例外)
まずは著作権の基礎から。
学習指導要領にもある知的財産権という言葉、また教員採用試験にある「著作権」という言葉はこのような構造になっています。
知的財産権の中に、著作権はじめ特許権・意匠権・商標権などがあります。著作権は生み出した瞬間に生み出した人に権利があります。産業財産権については申請などが必要です。
著作権法には、作品は作った人のものという原則が書いてあります。作った人のものだから、使う時・増やす時・変える時には作った人に許諾が必要です。学校は例外。許諾を得る必要がない許諾不要の中に学校は入っています。
今回は令和4年度に実施された問題を紹介します。まずはその前と前の年過去問題から見てみましょう。
令和2年度初めて著作権について音楽の問題としてあがったのがこちらです。また、その翌年にあがったのがこちらです。この2つの問題については別の動画「教員採用試験 著作権分野の過去問を解説します(令和2年度・3年度)」を既に出していますのでそちらをご覧下さい。
令和4年教員採用試験の著作権に関する設問と解答
東京都で出題された実際の問題はこちら
こちらが令和4年7月に行われた東京都の公立学校教員採用試験の問題です。東京都公立学校教員採用ポータルサイトに問題・正答・配点が全て載っています。
著作権の侵害に当たらない行為に関する記述として、我が国の著作権に関する法律に照らして最も適切なものは次の1〜4のうちではどれか。ただし、著作者または著作権の権利を有する者が著作物の権利を放棄しておらず、保護期間を超えていないものとする。また、いずれの行為も著作者又は著作権の権利を有する者の許諾を得ていないものとする。
選択肢は4つ、侵害に当たらない行為は1つです。
1 教員が、自身の担当する授業で児童・生徒に視聴させるためテレビの音楽番組を録画し、授業に利用した。
2 教員が、自校の校歌を混声四部合唱に編曲し、児童・生徒が伴奏、歌唱した録音音源を学校のホームページに掲載した。
3 教員が、校内研修の資料として使用するため、児童・生徒が歌唱した合唱曲の楽譜を参加者全員分複写し、配布した。
4 教員が、合唱部の定期演奏会を入場料を徴収せずに、観客全員から寄付金を募るチャリティーコンサートとして行い、楽曲を演奏した。
この中でひとつ著作権の侵害に当たらない行為、つまり正しい行為があるということです。では皆さん考えてみてください。
まずは正解から。著作権の侵害に当たらない行為は1番です。
詳しく解説をしていきます。
ポイントは著作権法35条への理解度
まずこの問題にあたる場合に問題文を理解してないといけません。著作権を知っていたり詳しかったりする人はこの問題文の意図も読み取れるかと思います。
「ただし」以降です。
著作者・著作権者が権利を放棄していない、そして保護期間を超えていない、この条件は先ほどの「例外」の中にあります。
著作権法は全部で124条、その中の第30条から第50条は許諾を得なくてもいいですよという「例外」について書いてあります。この著作者・著作権者が権利を放棄していない。また、保護期間を超えていない。これは作った人に許諾を得る必要があるということを念押ししています。
「また」の後の部分については、今年初めて追加された文章です。法律を知っている方だったらこれが何を意味するかというのはわかると思います。
著作物は作った人、また権利を持っている人、その人に許諾を得ればどのような形でも使うことができます。許諾を得られれば使ったり変えたり増やすことができます。
この問題文の場合は「許諾を得ていないものとする」ですので、許諾を得ないで使える範囲はどこまでか?ということを問うているのです。
もう1つ特筆すべきなのは、今回問題の中の選択肢の主語が明確になったことです。
今年度から「教員が」というのが全ての選択肢の頭につきました。この「教員が」を主張する理由としては、第35条の中の「誰が、誰に使うときには許諾不要なのか」というところが効いてきます。学校の第35条の条文はこのようになっています。お時間がある方はぜひ全部読んでみてください。
そして、さらにこの第35条の運用指針というのが出ています。例えば35条の条文の中の、
「教育を担任する者」というのは誰を指すのか?
「授業を受ける者」というのは誰を指すのか?
「授業」というこの文字の中に何が含まれるっているのか?
ということが35条の運用指針の中に書いてあります。例えば教科や特活・学活といった授業に含まれるものは良いですけれども、授業でないものはこういったことですというのが運用指針に書かれています。
著作権法35条が定めるルールとは?
ではこの35条。図式化するとこのようになります。
まずは学校であるということ、そして著作物のやりとりは教員と子どもの間であること、授業をするものと授業を受ける者ということです。
そしてこの授業の中であるということ、特に難しいのが部活動の扱いです。部活動は授業の中ではありますが学校外の活動の場合は授業には当たりませんので、合唱のコンクールや吹奏楽のコンクールの場合の著作物の扱いは学校の音楽科の授業とは異なりますので気を付けて下さい。
詳しくはNコンの解説について話した動画「Nコン2022の申込方法と著作権(無断改変は審査対象外!)」がありますので、ぜひそちらをご覧下さい。
そして左下の最小限であるということや公表された著作物であるということ、そしてオンライン授業は有償ですのでSARTRAS(授業目的公衆送信保証金等管理協会)に小学生は1人当たり年額120円、中学生は180円といった定額を支払う必要があるという決まりです。
このSARTRASについても、別で動画「【教員のための著作権解説】SARTRAS(授業目的公衆送信補償金等管理協会)とは?」を出していますのでそちらをご覧下さい。
解説
前置きが大変長くなりましたが、ここからは1つずつの選択肢を見ながら「どうしてできるのか?できないのか?そしてどうしたらできるようになるのか?」ということをお話しします。
1つ目の選択肢は著作権の侵害をしていない行為、許諾不要でできる行為ということです。
まず教員がしていること、そして児童を生徒にしているということ、「授業の中で」というのも重要です。
では2つ目以降はどのような点に問題があるのでしょうか?
校歌を学校ホームページに載せるときに注意すべきこと
2つ目は教員が校歌を編曲したこと。この編曲については授業の中でしたら問題ありません。そして児童生徒が伴奏して歌唱している録音音源であるということ。こちらも授業の中でしたら全く問題ありません。
問題はそれを学校のホームページに掲載したというところです。つまり誰でも見られる聞ける状態にしたということこれが問題です。
どのように解決すればいいかというと、もし混声四部合唱に編曲したものを使いたい場合は、学校の中だけ授業の中だけで使ってください。そして学校のホームページに校歌を掲載したい場合には、混声四部合唱ではなく作詞・作曲家が作ったその校歌をホームページに掲載してください。
学校がホームページなどで使用する場合、校歌については他の曲と違って使うことが認められています。校歌以外の曲をホームページに使うことこれは許諾が必要です。校歌だけですので気を付けて下さい。
気をつけなければいけないのが、学校によって校歌のほかに例えば第2校歌みたいなものや応援歌みたいなものがあったりすると思いますが、1曲だけと決められていますので学校のホームページに無許諾に掲載したい場合は、オリジナル(作詞・作曲家が作ったそのままの校歌を)1曲だけにしてください。
このケースで問題があるのはこの2つの部分、学校のホームページに掲載することで教員と子どもとのやりとりではなくなってしまうというところか問題。また最小限ではなくなってしまうというところが問題です。もちろん学校内でも授業内でもないのでこちらも問題です。
教員の校内研修で著作物を配布するときに注意すべきこと
続いて選択肢の3つ目教員が校内研修の資料で使うために楽譜を複写配布するということです。もう一度条件を確認しておきましょう。
教員が子どもに指導する場合に楽譜をコピーするのは可能ですけれども、校内研修ですから子ども相手ではありません。また校内研修は授業には当たりません。そういったことからこのケースはバツとなります。
もし校内研修で教員から教員に資料を配布する(楽譜が必要で配布する)場合には、こちらは楽譜を管理するJASRACなどまた出版社などに確認をすることが必要となります。合唱曲の楽譜を児童生徒に配布することは構いませんが、校内研修のように教員から教員に配布するのは別で許諾が必要です。注意をしてください。
チャリティーコンサートで演奏する楽曲の著作権料の支払いは必要か?
選択肢の4つ目は合唱部の定期演奏会についてです。ポイントは入場料を徴収せずというところとチャリティーコンサートというところです。この「チャリティーコンサート」がひっかけになっています。
まず部活動は授業の中に入っていますので、学校内の活動においては学校と同じように授業と同じように使用することができます。
しかし、外部で活動する場合にはそのルールは35条に適用されないことがあります。まず演奏会で楽曲を演奏する場合ですので、教員から子供への著作物のやりとりではありませんよね。教員や子どもからお客さんへのやり取りになりますので35条には当たりません。またもちろん授業ではありません。
演奏会で許諾を得ずにできる場合というケースがあります。手続きが要らない(許諾が不要という)場合は、この3つの条件を全て満たした場合です。
2つ目は演奏する人や指揮者に報酬を支払っていない場合
3つ目は企業が主催しているなど営利を目的としたものではないという場合
です。
ですので、文化祭の中で行われることや入学式や卒業式で演奏したり、児童生徒会の活動としての放送委員としての活動についてはこの3つの条件を全て満たしているので、手続きは不要(許諾が不要)で使うことができます。
このチャリティーコンサートの場合、注意点の1つ目、チャリティーコンサートは観客から募金を受け取るので手続き・許諾が必要です。
その代わりJASRACでは寄付先や寄付金額などにより無償許諾や著作物使用料の減額を行っていますと書いてあります。通常に入場料を取る演奏会よりも安く、もしくは無償で著作物を使うことができるということです。気をつけましょう。
まとめ:校歌・教員の校内研修・チャリティーコンサートの著作権で注意すべきこと(令和4年教採問題解説)
今日は教員採用試験に出てきた著作権に関する問題についてお話しました。
このように令和4年度の問題では「第35条に照らしてどうか」ということが問われました。教員から子ども、子どもから教員の著作物のやりとりであるかということ、それから授業の中であるかということ、この2つを最低限抑えれば正解が導き出せます。第35条で何が許されているのか?何が含まれているのか?ということをしっかり頭の中に入れていただきたいと思います。
第35条の原文はもちろんのこと、35条の運用指針こちらもぜひ目を通してみてください。
ウェブサイトの記事の内容は動画と同じです。
動画「校歌・教員の校内研修・チャリティーコンサートの著作権で注意すべきこと(令和4年教採問題解説)」も是非ご覧ください。
コメント