2021年度から始まった授業目的公衆送信補償金制度。
オンライン授業の著作物使用料を子ども全員分、支払うという仕組みです。
支払った補償金を管理する団体を授業目的公衆送信補償金等管理協会SARTRAS(サートラス)と言います。この動画の中でもSARTRASについて、話をしてきました。
SARTRASは学校で子どもたちが使ったオンラインの使用料を、著作者(作った人)や著作権を持つ権利者に渡すという役割をしています。権利者に渡す…と言っても実際にどのように渡すのでしょうか。
2022年2月にSARTRASのサイトに「2022年度の利用報告の依頼について」という案内がアップされました。
2022年度の利用報告は、全国の約1,200校(大学は学部単位)に依頼させていただきます。2月18日付で対象校の設置者のご担当者様宛に、SARTRASから依頼状をお送りいたしました。ぜひともご協力のほど、よろしくお願いいたします。
2022年度の利用報告の対象校(大学は学部単位)は約1,200校で、ご報告の対象期間は原則としてSARTRAS指定の1か月間です。
「利用報告」は権利者に補償金を渡すためのカギになります。
実際、どのようなものでしょうか?
そして、支払った補償金をどのように権利者は受け取るのでしょうか?
SARTRASへ支払う補償金の金額は一律
補償金は子ども1人あたりの金額で一律です。
小学生は120円・中学生は180円・高校生は420円・大学生は720円となっていて、幼稚園・保育所やこども園、放課後児童クラブから職業能力開発施設まで補償金の支払いが必要です。
支払うのは学校設置者なので、学校にいる教員が子どもからお金を徴収することはありません。
それゆえ、自分の自治体が支払っているか…オンライン授業で著作物を使っていいかを実感しにくいです。
そんな時はSARTRASサイトの「申請済教育機関等の名称検索」で検索してみてください。
「【オンライン授業・行事配信に不可欠】SARTRASに申請済か確認する方法を紹介」の動画では『世田谷区』や『東京学芸大学』で検索した様子を紹介しています。併せてごらんください。
補償金が権利者(作家・作曲者など)に分配される流れ
SARTRASが集めた補償金を権利者に直接渡すわけではありません。
音楽で言えば、合唱曲『春に』を使った際に、作詞者である谷川俊太郎さん・作曲者の木下牧子さんにSARTRASが渡すわけではありません。
SARTRASは、著作物を管理している「著作権等管理事業者」に分配をします。
例えば、音楽ならば日本音楽著作権協会(JASRAC)等に分配されます。音楽以外に新聞、文芸、脚本、写真、美術、漫画、書籍、雑誌、自然科学書、楽譜、電子書籍、芸能実演家、レコード、放送など、たくさんの著作物の管理事業者がいます。
学校で使う著作物は多岐に渡ります。
音楽はもちろん、国語・社会など教科の授業を考えただけでもたくさんの著作物を使っていますね。
また、教科以外でも運動会や文化祭などの特別活動でも、様々な種類や形態の著作物を使っています。
そして、各管理事業者から分配された補償金が権利者に渡ります。これで学校から、権利者につながりました。
(授業目的公衆送信補償金制度の概要(令和2年12月))(文化庁作成))
このように、学校設置者→SARTRAS→管理事業者→権利者という流れで作った人に渡るのです。
中学生1人が使用した180円は、権利者にいくら渡るのでしょうか。
この金額を決めるのが今日の本題である「利用報告」です。
SARTRASの利用報告とは?
SARTRASが1200校に依頼した「利用報告」これが著作者に渡る金額を決める大切なものです。
「実際に学校で何がどれくらい利用されたか」を学校からSARTRASに報告して、管理事業者・権利者への分配額を決めるのです。
SARTRASサイトの「利用報告」では、2021年度の利用報告として
教育機関設置者の皆さまにお支払いいただいた補償金は、授業目的公衆送信された著作物の著作権者、著作隣接権者に対して分配されます。補償金を適正に分配するためには、どの著作物が公衆送信されたのかを把握する必要があります。そのためには、実際に授業で公衆送信された著作物の情報を、利用された教育機関の方からご報告いただくことが必要です。
より正確で適切な分配を行うためには大規模で詳細な調査が必要ですが、その分、教育現場の負担が重くなってしまいます。そのため、調査の精度と教育現場への負担とのバランスを勘案した形で、教育機関の皆さまに期間を限定したサンプル方式による利用報告へのご協力をお願いしています。
とあります。
1200校をサンプルとして利用の状況を調べて、管理事業者や権利者への分配を決めるということです。
権利者のためにも利用報告は重要なのです。
2021年度の報告項目は13ありました。
(2)学年
(3)履修者等の人数(合計)
(4)著作物の入手・掲載元の分類
(5)著作物の分類
(6)著作物の入手・掲載元名(書籍名、アルバム名、サイト名等)
(7)著作物名・タイトル・見出し
(8)著作者名・アーティスト名・出演者名・制作者名
(9)発行・制作元
(10)発行・販売時期
(11)利用した箇所・分量
(12)個別の製品番号など
(13)備考
初等中等教育を想定した例に、音楽科のCDがあったので紹介します。
(2)学年:2
(3)履修者等の人数(合計):40
1学年4クラスで使用した場合は、40×4で160となります。
(4)著作物の入手・掲載元の分類:音楽CD・レコード
授業ではレコードはさすがに使いませんが、CDやDVDはよく使います。
(5)著作物の分類:音楽(CDや音楽配信など市販音源・音のみ・動画なし)
(6)著作物の入手・掲載元名(書籍名、アルバム名、サイト名等):組曲:日本の島
(7)著作物名・タイトル・見出し:淡路島
(8)著作者名・アーティスト名・出演者名・制作者名:列島夕子
(9)発行・制作元:ユニバース・レコード
レコード会社はCDの帯や歌詞カード、ディスクの円盤本体に書かれています。小さい文字で書いてあり、わかりにくいです。あまり意識しないと、誤ってプロダクション名等を書いてしまうかもしれません。注意しましょう。
(10)発行・販売時期:2008年10月
これもCDの帯や歌詞カードなどに書いています。
(11)利用した箇所・分量:冒頭50秒
(12)個別の製品番号など:ABCD-01234
(13)備考:CD記載の商品番号
例には、教科書もあります。
その通り、教科書を使用した場合も報告が必要です。
教科書例では、数学3で「文章」「写真」「図表」で別の項目として報告をしています。それぞれに権利者がいる可能性があるからです。
著作物の分類を理解するのが難しそうですが、1人の人の役割分担と考えるとわかりやすいかもしれません。文章を書く人、写真を撮る人、図表を作る人では違うであろうということが想像できます。
教員の立場で考えると、ちょっと…とても…大変だなと感じてしまうと思います。
日々の授業の中で「いちいち覚えてない!」とか「今さら言わないで~」となってしまうかもしれません。
しかし、オンライン授業には『PowerPoint』や『Googleスライド』といったツールを使うと思いますので、それを日付と共に記録として取っておきましょう。
「原口 直の一歩先ゆく音楽教育」の『音楽授業におけるパワーポイントの作り方』で述べているように、最後のページには参考文献として使った書籍・音源・サイトを記録しておきましょう。そうすれば、調査対象になっても13の項目を書き出すことは簡単です。
また、次年度に使用する時、更新のために資料やサイトをたどりやすくなるので便利です。外部に公開や発表する際も、参考文献をリストにしておくのはマナーとして必要です。
まとめ:【補償金の行方】SARTRASの利用報告の意義とその役割の紹介
学校のオンライン授業で使った著作物。それを作った人に補償金が渡る仕組みを「利用報告」から解説しました。
作った人に対価が渡ることは、権利者が生活できることはもちろん、新たな著作物を生み出したり文化を豊かにしたりするために重要なことです。
学校の対面授業では著作物を無許可で使えることが書かれている著作権法第35条。しかし、オンライン授業は無償では使えません。
子どもや教員が直接お金を見るわけではないので両方とも許可なくタダで使えているような錯覚に陥ってしまいますが、オンラインは学校設置者(ほとんどが自治体)がSARTRASへ支払をしています。
そして、この事実を教員が知らないこともあり、私は危惧しています。
ウェブサイトの記事の内容は動画と同じです。
動画「【補償金の行方】SARTRASの利用報告の意義とその役割の紹介」も是非ご覧ください。
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