運動会や文化祭など、学校での行事を配信するという学校が増える中で、どのような内容を保護者に通知すればよいかという実務的な話をします。
まずは著作権の基礎から。
著作権は知的財産権の中にあり、生み出した瞬間にその人に権利があります。
作品は作った人のものだから、使う時・増やす時・変える時には作った人に許諾が必要です。
学校は例外。学校で使う著作物が許諾を得なくていいのは、例外だからです。
YouTube等を使って技術的にはできてしまうオンライン配信ですが、著作権への配慮を忘れてはなりません。
学校行事をオンライン配信する時の通知事項
令和3年11月9日に著作物の教育利用に関する関係者フォーラムから発表された「「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)」の初等中等教育における特別活動に関する追補版」には、
・楽譜をコピーして権利者の利益を不当に害する例
・授業目的公衆送信補償金(SARTRAS・サートラス)の支払が必要/不要の例
・教員⇔子ども以外が授業で著作物を扱う行為
・授業参観でのコピーと配布・配信
について書かれた上で、特別活動(行事)の配信について書かれています。
詳しくは、「【教員のための著作権解説】入学式・卒業式・運動会・文化祭をネットで配信する場合の注意点
」の動画をご覧ください。
運用指針を読むと2種類の通知が必要だと考えます。
2.動画配信中の視聴者への通知(YouTubeなら概要欄、配布するプログラムの一部に記載すると良いでしょう。)
オンライン配信前に保護者へ通知すべき事項
必須事項は「日時」「目的」「留意点」です。
日時とはオンデマンド配信(後で見られる)の期間です。「いつまで」というのが重要ですので、必ず記載しましょう。
目的はあいさつ文の中に入れてもいいと思いますので、通知の目的に応じて使ってください。
留意点は「運用指針追補版」に書かれた項目です。
これらは技術的には簡単にできてしまいます。URLをコピペしてLINEで送る、自分の子どもやクラスが映った瞬間を画面キャプチャーやスクリーンショットでカシャ・・・一瞬でできてしまいます。子どもだって簡単にできます。技術的に「できる」と、法律上「していい」は別なのです。
視聴用のIDやURLを保護者に伝える場合も注意が必要だと「運用指針」に書いてあります。
「パスワードを設定せずに誰でも見られる学校ホームページやSNSに載せないように」と注意書きがありますので、パスワードを設定したり、限定された人だけが見られる連絡ツールを使ったりしましょう。
オンライン配信中に通知すべき事項
運動会のダンス競技の例です。長文なのでYouTubeなら概要欄・配布用プログラムを作った場合は別紙にするとよいと思います。
この文例は運用指針に載っているもので、保護者向けではなく著作者・著作権者向けに書かれているように見受けられます。
本校では、学校目標に基づき、教科学習、総合的な学習の時間、および、特別活動の三者をそれぞれ独立した教育活動ではなく、互いに関連づけ系統的に実施するようカリキュラム・マネジメントを行っている。特に運動会のダンス競技は、保健体育科での学習成果を発表する場として位置づけている。
運動会は子どもの安全やプライバシーを考慮した上で、生徒の保護者、及び、特別活動の協力者の参観を認めている。
しかし、実際には何らかの理由により当日来校できない保護者や特別活動の協力者等もおり、これらの方々に向けて生徒の学びの成果を発表することは、優れた教育効果が得られるとともに、学校、家庭、地域社会の連携を一層強化するためにも必要なものと考えている。
そこで、これらの方々に対して、末尾に示す演目に適した音楽著作物等が収録されたダンス競技を中心として、編集を加えるなどした運動会の映像・音声を、オンデマンド型でインターネット配信することとした。
運動会の映像・音声のオンデマンド型での保護者へのインターネット配信は、著作権法第 35 条の規定、改正著作権法第35 条運用指針(令和 3(2021)年度版)を参照して実施する。また、保護者への事前のアンケート調査を行い、その結果を踏まえつつ、配信期間は運動会開催日から7日間を期限とする。したがって、〇月〇日には配信をストップし、配信用映像ファイルを抹消する。
保護者には以上を丁寧に説明した上で、運動会に限らず、私的複製目的の範囲を超えて、権利者の許諾を取らずに、特別活動参観等の映像の URL の他人への拡散、配信された映像の保存(ダウンロード)や他人への転送、画面キャプチャー、SNS 等への転載などは行わないよう周知し、著作権の保護に対する理解と協力を求め、同意書へのサインを得ている。なお、授業目的公衆送信補償金については、本校の設置者である〇〇市教育委員会が〇月〇日に本年度分の支払いを完了している。【配信する映像に収録される著作物一覧】
—–(※以下、曲名、作曲者名、作詞者名、演奏者名、アルバム名、発売、商品番号)—-
要約します。
第2段落は個人情報の保護と公開の範囲
第3段落は配信の理由
第4段落は著作権法に基づく実施、配信期間の根拠と終了後の処理
第5段階は保護者への通知、SARTRAS支払完了
最後に、使用する著作物として、音楽の曲名・作曲者名・作詞者名・演奏者名・アルバム名・発売・商品番号が書いてあります。
著作者向け文書ではありますが、保護者に趣旨を再確認してもらったり、オンライン配信や著作権に対する意識を高めてもらったりするのには良い文例です。文章をアレンジして保護者向けにする際にも便利です。
YouTubeライブで学校行事を配信する時の注意点
事前の通知・当日の通知の準備ができたら、技術的なことです。
配信前、YouTubeライブの運用について確認しましょう。
YouTubeライブはPCとスマホで違います。
チャンネル登録者がPCの場合は不問ですが、スマホの場合は1000人以上と決まっています。
また、YouTubeで音楽を流す場合、それが生徒によって演奏されたものであっても、YouTubeライブ中に警告が来る可能性があります。YouTubeは自動で既存の音楽を検出するコンテンツIDなどの仕組みがあり、「これは他人の著作物ではないですか?」と警告が出る可能性があるのです。
YouTubeの著作権の取り組みについては、動画「YouTubeの著作権保護への取り組み【学校でYouTubeを使えます。ただし…】」をご覧ください。
公開期間を終えたら動画を削除しましょう。
また、サーバ・ストレージ等に保存しておくことも著作者に無許諾ではできません。
学校の場合、データを引き継ぐ観点から「令和○年度」というフォルダを作ってデータをまとめたり、行事ごとや担当ごとの写真フォルダに年度別に蓄積していったりすると思います。
行事そのものの動画データはサーバ・ストレージ等から削除しましょう。
この記事の内容は動画と同じです。
動画「学校行事のオンライン配信時に保護者へ通知すべき事項とは?」も是非ご覧ください。
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