今日は「120円でできること」についてお話しします。
120円とは、小学生1人当たり1年間に支払う授業目的公衆送信の補償金の金額です。今日はこの120円について、「120円を支払うと一体何ができるのか?」そして「どれくらいの金額が集まっているのか?」「この集められた120円は一体どこに行くのか?」といった話をします。
授業目的公衆送信補償金制度とは?
著作権は知的財産権の一部であり、作品を作った瞬間にその人に権利が発生します。子どもたちも先生方も同様です。著作権法の原則は「作品は作った人のもの」。だから、著作物を「使う時」「増やす時」「変える時」には作った人に許諾が必要です。
以上が著作権法の原則です。
一方、例外的な使い方もあります。「許諾不要で使える」という範囲内に学校が入っており、学校は例外的に使える場合があります。
学校でオンライン授業ができる理由を説明します。授業で他人の著作物を使う場合、複製する場合、配布する場合には許諾不要でできていました。ただしそれは紙の時代の話です。
しかし、著作物を紙ではなくオンラインで使う場合、例えばグラフや写真、イラストを使う場合には、著作権者に一々許諾を取っていては、子供も教員も大変で授業になりません。
そういったことから、2021年からこの「授業目的公衆送信補償金制度」がスタートしました。著作権法第35条に明記されています。
それを管理しているのがSARTRAS(サートラス)という団体です。SARTRASに対して、小学生は1人あたり120円、中学生1人あたり180円、高校生1人あたり420円を年に1回支払うことで、許諾不要でオンライン上で著作物を使うことができます。
ここから本題です。「120円を支払うことで何ができるのか?」また「いくら集まったのか?」そして「どう使われているのか?」この3つの項目についてお話しします。
120円の補償金で何ができるのか?
まず、「120円を支払うことでできること」について解説します。
この図の中で灰色の部分と黄色い部分があります。
1番上には「ICTを活用した教育を推進するため、著作物の利用円滑化と著作権者の利益保護とのバランスを取った制度。補償金を一括で支払うことにより、著作物を無許諾利用できる範囲が拡大。」とあります。
学校の授業で許諾なしでできること
まずは「無許諾無償でできる範囲」についてです。つまり「120円を支払わなくてもできること」もあります。
1つ目は「複製」です。対面授業で使用する資料として印刷・子供へ配布すること、これらは無許諾無償で「学校の授業の範囲」で行うことができます。
2つ目は「遠隔合同授業等のための公衆送信」です。教員が教室で授業しているところを子供が同時に中継で見る場合、この場合は著作権法第35条の学校の授業の範囲内でしたら無許諾無償で使用が可能です。
補償金を支払うことでできること
次に、120円支払うことでできる部分についてです。本来は要許諾だったところを、法律が改正されて無許諾有償となりました。有償の部分が120円です。
1つ目は「対面授業の予習・復習用の資料をメールで送信」「対面授業で使用する資料を外部サーバー経由で送信」する場合です。具体的には、教員から子供に資料や宿題、お便りをメールで送信する場合や、Google Classroomの「●年●組国語」などに資料をアップロードする場合です。これらは120円を支払うことでできる範囲内です。
2つ目は「オンデマンド授業で講義映像や資料を送信する」場合です。オンデマンドとは、後で見られる状態を指します。例えば「1週間前にあった授業の動画」や「その授業で使ったワークシート」を送信する場合には、120円を払っていれば可能です。
3つ目は「スタジオ型のリアルタイム配信授業」です。教員が教室にいて、遠隔地(自宅や図書館など)にいる子供に対して同時中継する場合も、120円を支払っていれば資料のやり取りができます。
これらはタダでできているのではなく、120円を支払っているからできることです。こういったことを意識して公衆送信、授業を行ってください。
補償金を払っていてもできないことがあります
ただし注意事項があります。120円を支払っているからといって何でもできるわけではありません。資料の一番下にはこう書いてあります。
「ただし、ドリルやワークブックなど、児童生徒の購入を想定した著作物を、購入させずに複製や公衆送信を行うことなど、著作権者の利益を不当に害するような場合については、別途許諾が必要です。」
紙の場合もオンラインの場合も、複製には許諾が必要です。どうすればいいかというと、人数分を購入する、または複製可能と書いてあるドリルやワークブックを使用することです。ウェブサイト上の資料も同様で、必ず利用規約を読み、何がOKで何がダメかを確認してください。
集められた補償金の総額と使い道
集められた補償金の総額
次に、「いくら集まったのか?」についてです。資料によると、2024年3月31日現在のデータでは、多くの学校が補償金を支払っています。補償金は校種によって異なりますが、一体いくら集まったのでしょうか?こちらです。総額は48億7000万円です。大きな額だと感じるかもしれませんね。
最後に、「集められた補償金はどのように使われているか?」についてお話しします。
120円の流れはこのようになっています。
教育委員会や学校設置者などが支払った120円は、一旦SARTRASが預かり、そこから分配業務受託団体(著作権者達の団体)に分配されます。そして、実際に作品を作った人(絵を描いた人、音楽を作った人、グラフを作った人、写真を撮った人など)たちに分配されます。
また、一定割合として「共通目的事業」にも使われます。これは「これから作品を作る人」に対して使用される資金です。SARTRASが預かった120円は、作品を作った人に対して80%、これから作る人に対して20%が使われます。「作品を作った人に80%」が「分配基金34億円」、「これから作る人に20%」が「共通目的基金約9億円」となっています。
具体的な補償金の使い道
では、「作品を作った人」への分配について説明します。こちらには「利用報告」と書いてあります。
先ほど述べたように、写真、新聞、音楽など様々な権利を持っている団体があります。どの著作物ごとにどの団体に分配するかは、サンプル調査により決定されます。いくつかの学校が自分の学校で使用した著作物についてSARTRASに報告し、それを基に分配額が決められます。
次に、「これから作る人」への分配(共通目的基金)について解説します。
集まった48億円のうち20%に当たる9億円が、「これから作る人」に使われます。この資金はすでに様々な目的に使用されています。例えば、著作権の研修、教材資料作り、コンクールやコンテストの運営、データベースの作成などです。「双葉のようなマーク」が目印です。
一例として本屋大賞があります。「全国書店員が選んだいちばん! 売りたい本 本屋大賞」の中にもこの双葉のマークが記されています。本屋大賞の運営費の一部として、この共通目的資金120円の20%が使われています。
また、美術分野では「東京イラストレーターズ・ソサエティ」の公募、音楽分野では私も協力している新日本フィルハーモニー交響楽団のアウトリーチ(学校の鑑賞教室など)活動、さらに新聞社などが行う文学や音楽の賞の運営にも使われています。
2022年度には委託事業1件、助成事業38件が実施されています。私が行っている著作権研修の一部もSARTRASの共通目的事業の助成金を頂いて実施しています。研修の際には、皆さんにお見せするスライドの表紙に双葉のマークを付けています。
私が子供たちや先生方にお話をすることで、その先にいる多くの人々に著作権の知識が広まり、著作権の意識が高まることを願っています。そうすることで、良い創造の動きや活用の動きが生まれると信じています。
SARTRASの役割と今後の展望
今回は「120円で何ができる?」というテーマで、3つの項目についてお話ししました。
まだまだこの授業目的公衆送信補償金制度についてご理解いただいている方は少ないです。
研修先で「SARTRASという言葉を知っていますか?」というアンケートを取ると、情報担当の先生や管理職の方でもまだご存知ないという方が多いです。さらに、学校司書さんや学校事務さんなど、学校の著作権や学校の資金に携わる人でもSARTRASのことを知らない方が多いのが現状です。
教員がこの制度を知らなければ、子供たちに伝わることはありません。先生方も子供たちも、著作物をオンラインで安心して使うために、「自分たちはきちんと使用料・補償金を払っているんだ」ということを是非知ってください。これを第一歩として、自分たちが作る著作物はもちろん、他人の著作物を大事にするという気持ちを養ってほしいです。
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