文部科学省が、学校現場向けに生成AIのガイドラインを出していることをご存じでしょうか。
この記事では、最新版である「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」に何が書かれているのかを、学校現場の視点で整理します。授業や校務でAIを使うときの基本的な考え方、著作権との関係、そして2023年の暫定版から何が変わったのかまで、判断に必要なポイントをまとめました。「名前は聞いたことがあるけれど、中身までは読めていない」という方に向けた記事です。
文部科学省の生成AIガイドラインとは、正式名称を「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」といい、令和6(2024)年12月26日に公表された、学校現場で生成AIを使う際の考え方と留意点をまとめた文書です。
教職員や教育委員会などを主な読み手として、教職員が校務で使う場面、児童生徒が学習で使う場面、教育委員会が押さえるべき点が、それぞれ整理されています。大きな特徴は、生成AIの利活用を「禁止も義務付けもしない」と明記したうえで、判断するための材料を示している点です。

文部科学省の生成AIガイドラインとは?正式名称と最新版を確認する
まず押さえたいのは、このガイドラインには「旧」と「新」の2つがあり、現在参照すべきなのは新しいほうだということです。
| 旧ガイドライン | 新ガイドライン(現行) | |
|---|---|---|
| 正式名称 | 初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン(Ver.1.0) | 初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0) |
| 公表日 | 2023年7月 | 2024年12月26日 |
| 位置づけ | 現時点での知見に基づく暫定的なまとめ | 場面・主体ごとの具体的な方針と実務ポイント |
タイトルから「暫定的な」が消え、「利用」が「利活用」に変わっているのが、両者を見分けるいちばん分かりやすい目印です。
学校著作権ナビゲーターとして研修に伺うと、「ガイドラインは読みました」という先生が旧版のPDFを開いていた、ということが今でもあります。手元の資料のタイトルに「暫定的な」が入っていないか、まずご確認ください。
本体は33ページ。概要版から読むこともできます
新ガイドラインは本体が33ページありますが、文部科学省のウェブサイトには本体のほかに「概要1枚」と「概要資料」(複数枚のスライド版)も公開されています。すべてに目を通すのは難しいという場合は、概要1枚版だけでも全体像をつかむことができます。いずれも無料で、いつでも誰でもダウンロードできます。
なお、文部科学省は生成AI関連の情報をまとめた特設サイト「学校現場における生成AIの利活用について」を開設しており、ガイドライン本体のほか、研修動画やパイロット校の取組もここから辿れます。本体の英訳版も公開されています。
▶ 動画では1:35〜で新旧2つのガイドラインの成り立ちを解説しています
ガイドラインの基本的な考え方——「人間中心の生成AI利活用」とは
新ガイドラインの土台になっているのが、「人間中心の生成AI利活用」という考え方です。ここが分かると、個別の場面の判断もぶれにくくなります。
具体的には、次の3点が示されています。
- 生成AIは人間の能力を補助・拡張するツールであり、最適解ではなく参考の一つとして活用する
- 最終的な判断は人間が行い、生成物に責任を持つ
- AI時代における「学びに向かう力」の涵養を重視する
重要なのは、新ガイドラインが生成AIの利活用を禁止も義務付けもしていないという点です。使うか使わないかは現場の判断に委ねたうえで、使う場合に適切に扱うための指針を示す、という姿勢が明確になりました。「使わなければならない」でも「使ってはいけない」でもない、という前提を職員室で共有しておくと、話が進めやすくなるかもしれません。
▶ 動画では6:00〜で基本的な考え方の変化を解説しています
学校で押さえる3つの場面——校務・学習・教育委員会
新ガイドラインは、読み手に寄り添う形に構成が組み替えられ、「誰が、どの場面で使うのか」で章立てされています。追加された主なセクションは次の3つです。
- 教職員が校務で利活用する場面:校務での生成AI利用例と注意点の例示
- 児童生徒が学習活動で利活用する場面:適切な活用例・不適切な活用例の具体的な整理
- 教育委員会などが押さえておくべきポイント:行政の立場での注意事項の明確化
適切な活用例と不適切な活用例
旧ガイドラインでは教育利用の方向性を広く示すにとどまっていましたが、新ガイドラインでは具体例が分類されて示されています。
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 適切な活用例 | 英語教育における自然な表現の改善、プログラミング学習の高度化 など |
| 不適切な活用例 | 定期考査での利用、コンクール応募作品への生成AI使用 など |
ポイントは、不適切な例として挙げられているものが、いずれも「評価」や「本人の力を見る場面」だという点です。ここを軸に考えると、自校の場面に当てはめやすくなります。
使うときに意識したい3項目
児童生徒が生成AIを使う際に意識したい実務ポイントとして、次の3つが示されています。
- 課題の設定
- プロンプトの工夫
- 真偽の確認
参考資料も充実しています
巻末の参考資料には、生成AIパイロット校(先行して取り組んだ学校)の活用事例が授業ごと・校種ごとに整理されているほか、教職員・児童生徒向けの活用チェックリスト、リスクと懸念の具体例が収録されています。校内研修の資料をゼロから作らずに済む部分も多いので、ここだけでも目を通す価値があります。
▶ 動画では5:01〜と6:52〜で構成の変更と活用例を解説しています
生成AIと著作権——ガイドラインはどこまで書いているか
著作権の記述は、旧ガイドラインでは一般的な注意点にとどまっていましたが、新ガイドラインでは具体的になりました。
まず前提として、著作権は知的財産権のひとつで、音楽・写真・イラストなどの作品には、作り出した瞬間に作った人に著作権が発生します。作品は作った人のものであり、使うには原則として許諾が必要です。ただし著作権法には、一定の範囲で例外的に許諾なく使える場面が定められており、学校の授業での利用もそのひとつです。
そのうえで、新ガイドラインには次のように書かれています。
- 生成物と既存の著作物 生成物が既存の著作物に対して類似性・依拠性がある場合には、侵害の可能性があると具体的に記述されています
- 授業の過程での利用 学校の授業の過程での利用については、著作権法第35条(学校その他の教育機関で、授業の過程における利用に必要と認められる限度で、著作物の複製・公衆送信・公の伝達を認めている規定)の権利制限規定により、許可される範囲で可能と説明されています
なお、第35条は「授業だから自由に使える」という規定ではありません。営利を目的としない教育機関であること、教育を担任する者または授業を受ける者が行うこと、授業の過程での利用であること、必要と認められる限度であること、著作権者の利益を不当に害しないこと——この5つの条件をすべて満たす場合に認められるものです。また、複製ではなく公衆送信にあたる使い方をする場合は、学校の設置者がSARTRAS(授業目的公衆送信補償金等管理協会)へ補償金を支払っていることが前提になると考えられます。判断の際は、条件を一つずつ確認していくと安心です。
また、生成AIと著作権の関係(AIが出力したものの著作権の扱い、学習に使われるデータの適法性など)については、文化庁が令和6(2024)年3月に「AIと著作権に関する考え方について」を公表しており、その後も議論が続いています。断定的に判断せず、文化庁の最新の見解をあわせてご確認いただくと安心です。
生成AIを利用する際に注意したい著作権については「生成AI×著作権【学校版】入力・出力・SNS公開の注意点を先生向けに解説」で詳しく解説しています。

こうした著作権の問題を校内研修で体系的に扱いたい場合は、研修テーマの一覧もご覧ください。
情報モラル・情報セキュリティ・公平性
著作権とあわせて、新ガイドラインで具体化・追加された観点が3つあります。
- 情報モラル:ファクトチェックの重要性、偽情報のリスク、フィルターバブルへの対応など、具体的な学習活動が提案されています
- 情報セキュリティ:「教育情報セキュリティポリシー」を参考に、生成AI利用時のセキュリティ確保が推奨されています
- 公平性:生成AIの学習データに潜むバイアスを認識し、不当な偏見や差別を避けるために人間の介在が必要である、と記述されています
「フィルターバブル」など聞き慣れない用語が出てきたら、そこだけでも調べてみると、児童生徒への説明がしやすくなります。
▶ 動画では7:49〜と8:50〜で著作権・情報モラル・追加された観点を解説しています
新旧ガイドラインは何が変わった?6つの変更点を比較
ここまでが新ガイドラインの中身です。あらためて、旧ガイドラインから何が変わったのかを6点に整理します。
| # | 観点 | 旧ガイドライン(2023年7月) | 新ガイドライン(2024年12月) |
|---|---|---|---|
| ① | 目的と位置付け | 現時点での知見に基づく暫定的なまとめという性格を強調 | 教職員・教育委員会を主な対象に、具体的な方針と実務ポイントを提示。利活用を禁止も義務付けもしないと明記 |
| ② | 構成 | 位置づけ・概要・教育利用の方向性・留意点という構成 | 校務/児童生徒の学習/教育委員会の3場面に再編。参考資料を追加 |
| ③ | 基本的な考え方 | 生成AIの性質・メリット・デメリットを広範に記述 | 「人間中心の生成AI利活用」を新たに提示 |
| ④ | 実践的な指針 | 教育利用の方向性を広く示すのみで、具体例は限定的 | 適切な活用例・不適切な活用例を明確に分類。利用時の3項目を提示 |
| ⑤ | 著作権・情報モラル | 一般的な注意点を記述 | 類似性・依拠性、著作権法第35条の権利制限規定に言及。情報モラルの具体的学習活動を提案 |
| ⑥ | 追加された観点 | — | 情報セキュリティ、公平性(バイアスへの対応)、参考資料(パイロット校事例・チェックリスト・リスクと懸念の例) |
旧ガイドラインが出た2023年7月の時点では、AIと著作権に関する法的な整理がまだ進んでいませんでした。その後、文化審議会著作権分科会法制度小委員会で議論が進み、令和6(2024)年3月に「AIと著作権に関する考え方について」が取りまとめられます。同年7月には「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議」(座長:石川正俊・東京理科大学学長)が設置されました。この検討会議には、教育・生成AIの専門家、大学教員、教育委員会関係者、現職教員など、学校現場を知る立場の人が参加しています。同年8月から冬にかけての議論を経て生まれたのが、新ガイドラインです。
つまり「暫定的な」が取れた背景には、法的な整理が一定程度進んだという事情があります。
▶ 動画では3:52〜で新旧比較を詳しく解説しています
よくある質問(FAQ)
Q. 旧ガイドラインはもう読まなくてよいのでしょうか。
A. 実務で参照するのは新ガイドライン(Ver.2.0)で足ります。旧ガイドラインは「暫定的な」という語がタイトルに入っており、内容も新版に引き継がれたうえで具体化されています。校内で共有する資料が旧版のままになっていないか、確認しておくと安心です。
Q. 生成AIが作ったものの著作権はどう考えればよいですか。
A. 新ガイドラインには、生成物が既存の著作物に対して類似性・依拠性がある場合には侵害の可能性がある、と記述されています。AI生成物の著作権の扱いそのものについては、文化庁が令和6(2024)年3月に「AIと著作権に関する考え方について」を公表しており、その後も議論が続いています。断定は避け、文化庁の最新の見解をご確認いただくのがよいと考えられます。
Q. 授業で生成AIを使うとき、著作権はどこを見て判断すればよいですか。
A. 判断の基本軸は、著作権法第35条の権利制限規定の範囲内かどうかです。第35条が認めているのは複製・公衆送信・公の伝達の3つの行為で、いずれも5つの条件をすべて満たす場合に限られます。条件の詳細は関連記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。
Q. 忙しくて33ページも読めません。何から読めばよいですか。
A. 概要1枚版から始めることをお勧めします。文部科学省のウェブサイトから無料でダウンロードでき、全体像はこれだけでもつかめます。そのうえで、自分の立場に関係する章(校務/学習/教育委員会)だけを本体で読むという進め方が現実的です。
まとめ|学校現場で押さえるべき3つのポイント
① 「使う」も「使わない」も、学校の判断です
新ガイドラインは生成AIの利活用を禁止も義務付けもしていません。「人間中心」の原則に立ちながら、学校・教員・児童生徒それぞれの立場で適切に考えることが求められています。
② 著作権との関係は「第35条の範囲内かどうか」が判断の起点です
授業の過程での生成AI活用については、著作権法第35条の権利制限規定の範囲内で判断することが示されています。ただし第35条は5つの条件をすべて満たす場合の規定です。生成物については、類似性・依拠性の観点から慎重に扱うことが大切です。
③ まずは概要1枚版から読んでみましょう
33ページの本体が難しければ、概要1枚版から始めれば十分です。職員室でひとつの話題として取り上げてみてください。
学校現場で生成AIと上手に向き合うために、まずはガイドラインの存在と大まかな内容を知ることが第一歩です。いたずらに恐れるのではなく、正しく知って正しく使っていきましょう。
著作権研修・出前授業のご依頼を承っています。生成AIと著作権を含む研修テーマの事例は研修テーマ一覧をご覧ください。お問い合わせはこちらからどうぞ。
参考資料 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」(令和6年12月26日公表)/文部科学省ウェブサイトhttps://www.mext.go.jp/a_menu/other/mext_02412.html
※本記事の情報は執筆時点のものです。ガイドラインは今後改訂される可能性がありますので、最新情報は文部科学省のウェブサイトでご確認ください。
この記事は、動画「文科省の生成AIガイドラインとは?学校での使い方と注意点を解説」をもとに作成しました。


