「この振り付け、真似して踊った動画を上げても大丈夫でしょうか」。研修先でも、SNSを見ていても、よく耳にする問いです。
この記事では、振り付けそのものに著作権はあるのか、踊ってみた動画で本当に注意すべきなのは何か、そして運動会や文化祭など学校行事でのダンスはどう考えればよいのかを整理します。ポイントは、「踊る」「コピーする」「ネットに上げる」で、関わる条文が変わることです。あわせて、恋ダンス・恋チュンを著作権教育の教材として使う方法もご紹介します。
振り付けやダンスは、著作権法第10条第1項3号が例示する「舞踊又は無言劇の著作物」にあたり、著作物として保護の対象になりえます。ただし保護されるのは振り付けに創作性が認められる場合で、ありふれたステップの組み合わせについては著作物性が否定された裁判例もあります。学校著作権ナビゲーターとして研修でお話ししていても、「振り付けにも著作権があるのか」「どこまで守られるのか」は、意外に知られていない論点だと感じます。
▼学校における著作権入門の解説記事はこちら

振り付けやダンスに著作権はありますか?(著作権法第10条第1項3号)
あります。ただし、どんな動きでも保護されるわけではありません。
著作権法第10条は、著作物の種類を例示した条文です。そこに「舞踊又は無言劇の著作物」が挙げられており、日本舞踊、バレエ、ダンス、舞踏、パントマイムの振り付けなどが含まれます。つまり振り付けは、小説や音楽と同じように著作物として扱われうるということです。
一方で、保護されるのは振り付けに創作性、つまり作り手の個性が表れていると認められる場合です。ごく短いステップや、誰でも思いつくようなありふれた組み合わせについては、著作物性が認められないと判断された裁判例もあります。逆に、独自性のある振り付けについては著作物と認められた例もあり、判断は個別の内容によって分かれます。
そしてもうひとつ、大切な視点があります。ダンスの動画には2つの著作物が重なっているということです。ひとつは振り付け(舞踊の著作物)、もうひとつは流れている曲(音楽の著作物)。この2つを分けて考えると、判断がぐっとしやすくなります。
踊ってみた動画で本当に注意したいのは「音源」です
踊ってみた動画は、アーティスト本人ではない人が振り付けだけを踊る動画です。最近ではBTSやNiziUのような特徴的なダンス、簡単に真似できるダンスも数多く出てきました。
振り付けそのものについて
動画では、営利を目的とせず「ただみんなに見てほしい」という目的で投稿するなら、振り付けという意味では原則として許諾不要と説明しています。
ここは少し補っておきます。非営利であれば許諾なく上演できるという規定(著作権法第38条第1項)は、人前で踊る行為には及びますが、インターネットへの投稿には及びません。それでも踊ってみた動画の多くが問題になっていないのは、ありふれたステップの組み合わせには著作物性が認められにくいこと、そして権利者が投稿を歓迎している場合が多いことによると考えられます。
裏を返せば、独自性のある振り付けを、権利者が投稿を認めていない状況で使う場合には、許諾が必要になる可能性があります。気になるときは、権利者の公式サイトで投稿に関する案内を確認するか、専門家にご相談ください。
音源について
より注意が必要なのは、踊るための音楽のほうです。音楽には当然、著作権があります。
市販の音源、つまりアーティスト本人が演奏・歌唱したものそのものをアップロードすることは認められていません。動画共有サイトが結んでいる契約の対象は楽曲そのもの(著作権)であり、CDや配信の音源には、レコード会社や歌手・演奏者が持つ別の権利(著作隣接権)があるためです。
一方、自分で演奏・歌唱した音源を使う場合は対応が異なります。YouTubeはJASRAC・NexToneと包括契約を結んでいるため、これらの団体が管理している楽曲であれば、投稿する側が個別に許諾を取る必要はありません。ただし、両団体が管理していない楽曲は対象外です。使う曲がどちらの管理かは、JASRACのデータベース(J-WID)などで確認できます。
| やること | 考え方 |
|---|---|
| 人前で踊る(発表会・行事など) | 公表された著作物を、非営利・無料・出演者への報酬なしで上演する場合は、許諾なく行えます(第38条第1項) |
| 踊っている動画をネットに投稿する | 上記の規定は及びません。振り付けに創作性が認められ、権利者が投稿を認めていない場合は、許諾が必要になる可能性があります |
| 市販の音源をそのまま使う | 認められていません(レコード会社などの著作隣接権が別にあるため) |
| 自分で演奏・歌唱した音源を使う | JASRAC・NexToneの管理楽曲であれば、包括契約により個別の許諾は不要です。管理外の楽曲は対象外です |
大切なのは、ダンスをアップロードするとき「何を音源にするのか」という視点を持ち、音楽と舞踊の両方の著作物を意識することです。
学校のダンスはどこまで許諾不要?「踊る」と「コピーする」で条文が変わります
学校のなかにも、舞踊の著作物はたくさん潜んでいます。動画では、次の場面が挙げられています。
- 保健体育の授業でのダンス
- 運動会での学年表現ダンス、応援団・応援合戦のダンス
- 文化祭での部活動の発表、個人での発表
- 吹奏楽部などの「ドリル」と呼ばれる振り付け
これらはすべて、学校の授業(特別活動)に含まれると考えられます。運動会や文化祭は教育課程に位置づけられた学校行事であり、部活動も同様です。
ただし、そこから先の根拠になる条文は、行為によって分かれます。ここが実務でいちばん混乱しやすいところです。
| 学校でやること | 根拠になる規定 |
|---|---|
| 振り付け映像を教材としてコピーする | 著作権法第35条(複製) |
| 教室のモニターで公式動画を見せる | 著作権法第35条(公の伝達) |
| 運動会・文化祭で実際に踊る | 著作権法第38条第1項(上演) |
| その様子をYouTubeで一般公開する | どちらの例外にもあたらず、別途権利処理が必要 |
教材としてコピーする・見せる場面は第35条
著作権法第35条は、学校その他の教育機関において、授業の過程で著作物を複製・公衆送信・公の伝達できることを定めた規定です。振り付けを覚えるために映像や資料をコピーして配る場面、教室のモニターで公式動画を見せる場面は、この条文が根拠になります。
ただし「授業だから何でも自由」ではありません。教育を担任する者または授業を受ける者が行うこと、授業の過程での利用であること、必要と認められる限度であること、著作権者の利益を不当に害しないことなど、いくつかの条件を満たす場合に限られます。
実際に踊る場面は第38条第1項
一方、運動会や文化祭で実際に踊って観客に見せる行為は「上演」にあたります。上演は第35条の対象行為に含まれていないため、根拠になるのは著作権法第38条第1項です。
この規定は、すでに公表された著作物を、営利を目的とせず、観客から料金を受けず、演じる人に報酬も支払われない場合に、許諾なく上演できることを定めたものです。学校の運動会や文化祭は、多くの場合この条件を満たすと考えられます。
条文が違っても「許諾は不要」という結論は同じです。それでも区別しておく意味はあります。入場料を取るイベントに出演する場合や、外部の講師に謝金を払って一緒に踊ってもらう場合など、条件を外れる場面が出てきたときに、どこを確認すればよいかが分かるからです。
撮影してインターネットで公開する場合は別の話
学校行事の様子を撮影してYouTubeなどで一般公開する場合は、上記のどちらの例外にもあたりません。音楽と振り付けの両方について、別に権利処理を考える必要があります。市販の音源を使っている場合は、レコード会社などの権利(著作隣接権)も関わってきます。
なお、参観に同意いただいた保護者や協力者に限定した配信であれば、条件を満たすことで第35条の範囲で対応できるケースもあります。ただしこの場合も行為としては公衆送信にあたるため、学校の設置者が授業目的公衆送信補償金を支払っていることが前提になると考えられます。あとから視聴できるオンデマンド型で配信する場合は、視聴期間をあらかじめ決めておき、期間終了後にデータを消しておくことも必要とされています。
▼学校行事をオンラインで配信するときの考え方

ダンスは学習指導要領にも位置づけられています
ダンスは中学校学習指導要領(保健体育)に位置づけられた領域です。多様なテーマからイメージを捉えて即興的に表現する創作ダンス、日本の民謡や外国の踊りから特徴を捉えて音楽に合わせて踊るフォークダンスなどが示されています。学校教育のなかで正式に扱われる内容だからこそ、根拠を整理しておく意味があります。
▼著作権法35条の解説はこちら


公式の振り付け動画の見分け方
振り付けを学ぶなら、アーティスト本人の公式チャンネルの動画を使うのが安心です。授業で教室のモニターに映して見せる場面は、前述のとおり第35条の「公の伝達」で説明できます。
公式かどうかは、チャンネル名の右側にある「丸にチェックマーク」で見分けられます。このマークがある公式チャンネルの動画は、ほとんどが本人の歌・演奏による楽曲を使っており、視聴によってJASRAC/NexToneを通じて著作者に収益が分配される仕組みになっています。振り付けを学ぶことが、そのまま作った人への還元につながるわけです。
振り付け専用の動画は、タイトルに「Choreography」「Dance Practice」「ダンスバージョン」といった文言が入っていることが多くあります。ミュージックビデオとは別に、定点カメラで振り付けを通した動画や、覚えやすいように左右を反転させた鏡向きの動画が公開されていることもあります。
運動会用のダンス動画を使うときの確認ポイント
YouTubeには、運動会向けのダンス動画も数多く公開されています。歌手自身が子ども向け・運動会向けに紹介しているもの、教育系の企業が「運動会に最適」として紹介しているもの、ダンサーが公開しているもの、学校が過去の運動会の様子を上げているもの(個人的な公開が多いようです)など、実にさまざまです。
重要なのは、それぞれに著作者がいるということです。使用にあたって料金を払う必要がある動画もあれば、YouTube上で見られるために一見無料に見える動画もあります。使う前に利用条件を確認する習慣を持っておくと安心です。
こうした著作権の問題を校内研修で体系的に扱いたい場合は、研修テーマの一覧もご覧ください。
恋ダンス・恋チュン・踊ってみたで考える著作権教育
授業や行事の制作過程は、著作権を「自分ごと」として考えさせる絶好の機会です。
たとえば、編集した動画をみんなで共有しようという話は必ず出てきます。そのとき、公式の歌手の動画を使うのか、ダンスが上手なクラスメートの動画を共有するのか、教員が踊っている様子を見せるのか。「あれ、著作権は大丈夫かな」「音楽の著作権はどうなんだろう」と、子どもたちが自然に視野を広げるきっかけになります。
子どもたちに身近な事例を3つご紹介します。
恋ダンス:なぜ放映後に削除が求められたのか
星野源さんが作詞作曲した楽曲「恋」に合わせて、星野源さん・新垣結衣さんをはじめ多くの出演者が踊った「恋ダンス」。ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』のプロモーションのひとつとして、大きな話題になりました。
放映中はYouTubeへのアップロードが推奨され、ご本人が歌っている音源を使った動画も多く見られました。ユーチューバーや芸能人、ダンサーなど、さまざまな人が投稿しています。しかし放映終了後は、自主的な削除が求められました。
「なぜ放映中はよくて、終わったら削除なのでしょうか」。この問いを子どもたちに投げかけてみると、とても面白い議論になります。権利者が「使ってよい」と決めれば使えるし、その範囲は権利者が決められる。そんな著作権の基本が、実感として伝わるはずです。
恋チュン:誰のチャンネルに動画があるのか
AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」(作詞:秋元康/作曲:伊藤心太郎)は、社会現象と言えるほど多くの団体・企業、そして官庁までが振り付けを踊り、YouTubeに投稿しました。
ここで一度、動画が誰のチャンネルに上がっているかを見てみてください。参加した個人や団体それぞれのチャンネルではなく、AKB48の公式YouTubeチャンネルで公開されているのです。公式チャンネルで公開されることで、収益は権利者に分配される仕組みになっていました。
ここは子どもたちと一歩踏み込んで考えたいところです。曲を作った人に届く分(著作権)と、歌った人や音源を作った人に届く分(著作隣接権)は、別々の仕組みで動いています。「誰のチャンネルにあるか」を入り口に、「誰にどうお金が届くのか」までたどってみると、著作権の全体像が見えてきます。
踊ってみた動画:音源に目を向ける
前述のとおり、踊ってみた動画は振り付けと音源を分けて考えることが大切です。子どもたちにも身近な題材ですから、「何を音源にするか」を一緒に考えてみると、音楽と舞踊という2つの著作物に自然と目が向きます。
最後には、みんなで踊ってみるのもいいかもしれませんね。
まとめ:学校のルールと、習い事のルールは違います
振り付けやダンスは、創作性が認められれば著作物として保護されます。そして踊ってみた動画では、振り付け以上に音源への配慮が問われます。
学校のダンスについては、「踊る」なら第38条第1項、「コピーする・見せる」なら第35条と、行為によって根拠が分かれます。どちらも一定の条件つきであり、インターネットでの一般公開はまた別の話になります。この整理を持っておくと、迷ったときに「いま自分は何をしようとしているのか」から考え始められます。
子どもたちにとって、ダンスは学校のなかだけのものではありません。習い事のダンススクールで踊ることもあれば、家でスマートフォンに向かって踊ることもあるでしょう。学校のルールと習い事のルール、そして個人で投稿するときのルールは、それぞれ違ってきます。そういった違いに注目して教えてみるのも、ひとつの方法です。
そして、著作権教育と同時に、著作者や著作物、そして文化を守る心を育てる教育も同じくらい大切です。いたずらに恐れるのではなく、原則に則って、正しく知って正しく使う。そんな姿勢を、子どもたちと一緒に育てていけたらと思います。
▼学校で気をつけたい著作権の基本を解説する3本シリーズの記事です



よくある質問(FAQ)
Q. 踊ってみた動画をSNSやYouTubeに投稿するとき、振り付けの許諾は必要ですか?
A. 「非営利なら許諾不要」という規定(著作権法第38条第1項)は、人前で踊る行為が対象で、インターネットへの投稿には及びません。実際に問題になりにくいのは、ありふれたステップに著作物性が認められにくいこと、権利者が投稿を歓迎している場合が多いことによります。独自性のある振り付けを使う場合は、権利者の案内を確認されると安心です。
Q. 市販のCD音源を使って踊ってみた動画を投稿してもいいですか?
A. アーティスト本人が演奏・歌唱した音源そのものをアップロードすることは認められていません。動画共有サイトの契約の対象は楽曲(著作権)であり、音源にはレコード会社などの著作隣接権が別にあるためです。自分で演奏・歌唱した音源であれば、JASRAC・NexToneの管理楽曲に限り、個別の許諾なく使えます。
Q. 学校の運動会でダンスをする場合、振り付けの著作権許諾は必要ですか?
A. 運動会で踊る行為は「上演」にあたり、著作権法第38条第1項により、非営利・無料・出演者への報酬なしという条件を満たせば許諾は不要と考えられます。振り付けの映像を教材としてコピーする場面は、著作権法第35条が根拠になります。ただし、その様子をYouTubeなどで一般公開する場合は、音楽と振り付けの両方について別途権利処理が必要です。
Q. 公式の振り付け動画と一般投稿の動画はどう違いますか?
A. チャンネル名の右側に「丸にチェックマーク」の公式マークがあれば公式チャンネルです。公式チャンネルの動画は収益がJASRAC/NexToneを通じて著作者に還元されます。一方、一般投稿の運動会向けダンス動画にはそれぞれ著作者がおり、使用条件や料金が設定されている場合もあります。
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