学校の先生方がレポートや資料作成で必ず直面するのが「引用」です。日々の教材作りや学級だよりなどの作成、本当にお疲れ様です。
資料を作っていて、こんな風に悩んだことはありませんか?
「この新聞記事すごくいい内容だから、学級だよりに載せて保護者にも読んでもらいたいな。でも勝手に載せていいのかな?」
「研究紀要などを書く時に、有名な先生の論文を一部使いたいけれども、どこまでなら許されるんだろう?」
実は、ここで必要になってくるのが著作権法における「引用」の知識です。
今回は、なんとなく知っているようで実は誤解が多い引用のルールについて、学校現場の視点から分かりやすく解説します。
この記事を読めば、自信を持って資料を作成できるようになります。
そして何より、子供たちに情報の正しい使い手として背中を見せてあげることができるようになります。子供の資料にも「引用」はたくさん出てきますので、ぜひ最後までご確認ください。
この記事では、まず学校現場で一番混同しやすい「授業での利用」と「引用」の違いを整理します。その上で、引用をするための5つの条件、そして明日からの活動にすぐ活用できる具体的なOK・NGの事例をご紹介します。
「授業目的の利用(第35条)」と「引用(第32条)」の違い
ここが一番勘違いしやすいポイントです。
学校現場では普段「授業で使うならコピーしていい」と聞いたことがありませんか?
これは著作権法第35条という、学校だけに認められた特別なルールです。
授業で使うプリント、最近ではタブレットなどへの配信は、この第35条のおかげで、権利者の許可なく行うことができます。
しかし、以下のケースではどうでしょうか。
- 先生方自身の研究紀要
- 保護者向けの学校だより
- 学校のウェブサイトへの掲載
これらは授業そのものではない場合が多く、教員から子供へ提供するだけにとどまりません。広く一般に公開される場合が多いため、第35条のルールが使えないことが多いのです。
そこで登場するのが、本題である「第32条 引用」です。
「引用」の定義と目的
引用とは、自分の主張や解説をするために、他の人の作品の一部分を借りてくることを指します。大事なのは「なぜ借りるか」という理由です。
ただ単に「スライドが寂しいからイラストを貼ろう」「良い文章だから紹介しよう」というのは、実は引用ではありません。
「私はこう考える。なぜなら、この文献に・この資料にこう書かれているからだ」というように、あくまで自分自身の考えを補強するために使うのが「引用」です。
引用として認められるための「5つの条件」
法令や判例などで示されている条件の中から、学校現場で先生方や子供たちが資料を作る際に、絶対に押さえておくべき5つの条件を整理しました。これらは全て守る必要があります。
- 公表された作品であること:すでに世に出ている作品である必要があります。
- 引用の必然性があること:どうしてもその部分を引用しないと話が繋がらない、という理由が必要です。
- 主従の関係であること:自分の書く文章が「主」、引用の部分が「従(サブ的)」でなければいけません。
- 明確な区分があること:どの部分が引用なのか、かぎ括弧をつけたり枠で囲ったりして、はっきりと自分の部分と引用の部分を分ける必要があります。
- 出所の明示:引用した資料が、誰のどの作品かということを書く必要があります。
特に重要な「主従の関係」について
少し難しい「主従」について、詳しく見てみましょう。
引用と認められないNG例
他人の文章や画像をドーンと大きく載せて、教員のコメントは「素晴らしいですね」の一言だけ。
これだと、読者は教員自身の意見ではなく、他人の作品そのものを見ることになってしまいます。これは主従が逆転しており、引用とは認められず「転載」となって許可が必要になります。
引用と認められるOK例
自分が書いた部分の解説や意見がしっかりと書かれていて、その一部として証拠や例示をするために、他人の作品が少しだけ使われている状態。これが正しい引用のバランスです。
学校現場でよくある具体的ケース:OK・NGの境界線
【ケース1】学級だよりに新聞記事を載せたい場合
最近のニュースについて考えてほしいという意図で、新聞のコラムを切り抜いてそのまま貼り付け配布するのは、NGとなる可能性が高いです。
コラムをそのまま貼り付けると、主従の関係においてコラムがメインになってしまうからです。新聞社からすれば「勝手に記事をコピーして配られた」ということになり、権利侵害の恐れがあります。
- 引用として成立させるには:教員自身がそのニュースについての見解・意見をしっかり書き、その中で記事の一部分を数行だけ抜粋し、カギ括弧でくくって出典・出所を書くようにします。
- 全文を読ませたい場合:現物を回覧するか、きちんと新聞社に許諾を取るのが正しい手順です。

【ケース2】児童生徒のスライド作成への指導
子供たちが調べ学習でスライドを作る際、ネットの画像をたくさん貼ることがあります。
これを正しく指導するポイントは、「自分の意見」と「借りてきた情報」を混ぜないことです。
「ネットで検索して出てきたから使っていい」のではなく、「自分の発表スライドを作るためにこの写真がどうしても必要だから借りる」という意識を持たせましょう。そして、スライドの画像のすぐ下に必ずウェブサイト名やURLを書かせる習慣をつけましょう。
これは著作権教育の第一歩としても非常に重要です。

【ケース3】教員の研究活動やウェブサイトでの利用
これらは学校の外、場合によっては世界中に公開されます。「授業目的だからちょっとぐらい大丈夫だろう」という甘えは通用しません。
特に注意したいのが、ウェブサイトやブログでのイメージ画像の利用です。記事の内容と直接関係のない、単に彩りを添えるためのイラストや写真をネットから拾って貼り付けるのは、引用の必然性も主従の関係も満たさないため、引用とは言えません。
- 対策:自分で撮影した写真や自分に著作権があるもの、あるいは規約を確認した上で「フリー素材」と言われるものを利用するようにしましょう。

まとめ:正しい引用のルールを教育活動に活かす
本日のポイントを振り返ります。
- 授業用のルール(第35条)と引用のルール(第32条)は別物。公に発信する際はより慎重になりましょう。
- 「主従の関係」を守る。自分の意見をメインにし、他人の部分はサブ的にします。これは子供にも伝えてください。
- 明確な区分と出所の明示。カギ括弧や四角で囲み、必ず出典を書きましょう。
引用は他人の著作物を無断で使える便利で特別なルールですが、それは「公正な慣行」と「正当な範囲内」であることが大前提です。
もし「メインが他人の作品になっていないかな?」と迷うようなグレーな場合は、無理に利用せず、権利者に許可を取るか利用を控えるのが学校としての安全策です。
教員が正しい引用のルールを身につけることは、トラブルを防ぐだけでなく、子供たちに対する知的財産権・著作権を尊重する姿勢の教育そのものです。
子供たちのスライドに「出所を書きなさい」と言いながら、教員自身の資料ができていなければ説明がつきません。ぜひ、ご自身が作る学校だよりや資料作成の際に、「主従の関係かな?」「出所は書いたかな?」と一度振り返ってみてください。
より詳しく知りたい場合は、文化庁のウェブサイトや、授業目的送信補償金等管理協会(通称:サートラス)のサイトにQ&Aなどが詳しく載っています。不安な時はそちらも確認し、ぜひ教育活動に活かしてみてください。
この記事は、動画「【著作権】学級だよりに新聞記事を貼るのはNG?先生が絶対に守るべき「引用」5つのルール」をもとに作成しました。
