この記事では学校の先生方に向けて、毎日の授業や行事で必ず直面する著作権のお話をします。
授業の準備をしていて、「この資料コピーしていいのかな?配っても大丈夫かな?」とか、「運動会の準備で流行りの曲を流したいけれども、動画にして配信してもいいのかな?」と、ふと手が止まってしまうことはありませんか?
著作権は法律の言葉が多くて難しそうに見えますよね。
もし違反していたらどうしようと不安になることもあると思います。
でも大丈夫です。
この記事を読んでいただければ、学校ならではの特別なルールと絶対に守るべきラインがはっきりと分かります。曖昧だったモヤモヤが晴れて、明日からは自信を持って堂々と教材を使えるようになります。
今回は大事なポイントを3つに絞ってお伝えします。
- そもそも著作権とは何を守るものなのか
- 学校だけ特別?自由に使える条件とは
- これはOK?NG?現場でよくあるお悩みQ&A
著作権の基礎知識:そもそも著作権とは何か?
先生方は、著作権と言うと手続きが必要なものだと思っていませんか?
実は著作権は、作文でも絵でもメモ書き程度の鼻唄でも、誰かが創作的な表現をした瞬間に自動的に発生します。登録、それから申請・認められることなどの手続きは一切いりません。これを「無方式主義」と言います。
そしてこの著作権には、大きく分けて2つの柱があります。
著作者人格権:作者の「心」を守る権利
1つ目の柱は「著作者人格権」です。これは作者の心・気持ちを守る権利です。
例えば、勝手に作品のタイトルを変えられてしまったり、中身を切り刻まれたりしてしまったら、作った人は傷つきますよね。また「名前を出して欲しい」という思いもあります。
作者のこだわりや名誉を守る、これが著作者人格権です。
著作権(財産権):作者の「お財布」を守る権利
2つ目の柱は「著作権・財産権」です。こちらは作者のお財布、つまり経済的な利益を守る権利です。
作品をコピーしたり、インターネットで配信したりするという権利は、本来作った人、作者だけが持っています。もし誰かが勝手にコピーして配ってしまったら、その作品は売れなくなってしまって、作った人にお金が入らなくなってしまいます。
つまり、著作権を守るということは「作者の気持ちと利益を尊重すること」なのです。
学校だけの特別ルール:著作権法第35条
ここが最も重要なポイントです。
本来、他人の作品を使う場合には、作った人・作者に許可を取る「許諾」を得るのが大原則です。
でも、学校の教員がいちいち「このプリント配っていいですか?」と許可を取っていたら授業になりません。そこで、著作権法第35条という法律で、学校には特別な例外が認められています。
一定の条件を満たせば、許可なくコピーや配信ができます。その条件は大きく分けて次の3つです。
学校で第35条が適用されるための条件
① 授業の過程であること
授業はもちろん、部活動・運動会などの特別活動・行事なども含まれます。子供たちの委員会活動や、総合・探求も含まれます。
しかし、教員会議(教職員の会議)やPTAの資料は授業ではないため、この例外は使えません。ご注意ください。
② 教員や生徒が使うこと
授業に関係のない第三者に複製・公衆送信をすることは、原則に則って許諾が必要です。あくまでも「教員と子供」「子供から教員」というやり取りの中であることが条件です。
③ 必要と認められる限度内であること
クラスの人数分だけコピー(複製)するのは可能ですが、全校生徒分配ったり、いつでも誰でも見られる状態にしたりするのは、限度を超えている可能性があります。
ICT教育と「授業目的公衆送信補償金制度・サートラス」
今の時代に気をつけたいのがインターネットでの利用です。タブレット端末で資料を共有する際など、資料をインターネットで送ること(専門用語で「公衆送信」)については、「授業目的公衆送信補償金制度」という仕組みがあります。
これを統括しているのがサートラス(SARTRAS)という団体です。学校の設置者(自治体など)が補償金をサートラスに支払うことで、先生方は個別の許可なしに以下のようなことが可能になりました。
- 著作物をクラウドに上げる
- 遠隔授業で配信する

忘れてはいけない大原則
ただし、絶対に忘れてはいけない大原則があります。
それは、「権利を持つ人の利益を不当に害さない」ということです。
いくら学校であっても、「これをやったら作った人の商売の邪魔になるよね」という行為はNGです。
ケーススタディ:現場でよくある「これはOK?NG?」
具体的な事例をケーススタディで見ていきましょう。
ケース1:ドリルやワークブックのコピー
「児童や生徒にドリルを買わせるのは負担だから、教員が持っている1冊をコピーして全員に配ろう」
これは教員の優しさから来る行動かもしれませんが、著作権法ではNGです。著作権侵害になる可能性が高いです。なぜなら、ドリルやワークブックは「生徒が1人1冊買うこと」を前提に作られている商品だからです。
コピーして配ってしまうと本来売れるはずだった数が売れなくなり、出版社などの作者の利益を不当に害することになります。
「市販品の代わりになるようなコピーはできない」と覚えておきましょう。ウェブ上のドリルについても、それぞれのサイトの利用規約を必ず確認してください。
ケース2:運動会のダンス動画を保護者に配信
「運動会で流行りの曲を使ってダンスをした動画を、保護者が受動的に見られるように配信したい」
結論から言うと、やり方によってはOKです。
- リアルタイムのライブ配信・生中継:サートラスの補償金の範囲で可能です。
- オンデマンド配信(録画):注意が必要です。サーバーにずっと動画を残しておくと「必要と認められる限度」を超えてしまう可能性があります。
【対応のセット】
- 「●月●日まで」と視聴期間を決めて、終わったらすぐ削除する。
- 保護者に対し「SNSへの転載禁止」「URLを他人に教えない」といった案内をしっかり伝える。

ケース3:授業参観での資料配布
「授業で使ったプリントを、参観に来た保護者にも渡したい」
これはOKです。保護者は授業を受ける生徒ではありませんが、参観者の人数分であれば授業の必要範囲内と認められています。
子供たちに配るものと同じものであれば、参観者にも配ることができます。安心して配布してください。

まとめ:みんながハッピーになるためのルール
最後に、今日のポイントをまとめます。
著作権は作者の「気持ち」と「利益」を守るためのもの。
学校では授業の過程であれば原則として許可なく利用できるが、「作者の利益を不当に害さない」ことが大前提。
市販ドリルのコピーなど購入の代わりになる行為はNG。オンライン配信は期間制限やパスワードなどの管理を徹底する。
もし迷った時には、「これをしたら作った人(作者)が悲しまないかな?損をしないかな?」と想像してみてください。
そして、「出典(作品名や作者名)」をしっかりと書いておくこと。これだけでも作者へのリスペクトを示す大切な行動になります。
著作権は「べからず集(これしちゃだめ、あれしちゃだめ)」だけではなく、素晴らしい作品を作ってくれた人たちへの感謝のルールです。正しく理解して、先生方も、生徒も、そして作った人も、それぞれがみんなハッピーになるように教育活動を続けていきましょう。
より詳しい情報は文化庁やサートラスのウェブサイトにも載っていますので、ぜひ一度職員室で話題にしてみてください。
この記事は、動画「【学校の著作権】これってOK?NG?第35条の基本ルールと現場の悩みを徹底解説!」をもとに作成しました。
