保健だよりのイラストや掲示物、健康教育の授業スライド——養護教諭の先生は、他の教科の先生以上に「資料を作る・掲示物を工夫する」機会が多い立場です。その分、「このイラストや記事、無断で使って大丈夫だろうか」と不安になった経験がある方も多いのではないでしょうか。
この記事では、養護教諭の先生が特に迷いやすい3つの場面(保健だより・掲示物・授業資料)について、著作権法第35条と第32条の違いを軸に整理します。
著作権法とは、他人が作ったイラストや文章などの著作物を使う際、原則として作った人の許可が必要と定めた法律です。
ただし学校教育がスムーズに進むよう、許可なく使える例外(権利制限規定)も用意されており、代表的なものが授業での複製を認める第35条(授業目的の利用を認める規定)と、他人の作品を紹介する引用のルールを定めた第32条(著作物の引用に関する規定)です。学校著作権ナビゲーターとして研修でよく聞かれる「これは使っていいですか」という質問の多くは、この2つの条文のどちらに当てはまるかで答えが変わります。
保健だよりへのイラスト・記事掲載は著作権法第32条の引用にあたりますか?
保健だよりに載せるイラストをフリー素材サイトから探したり、新聞の健康記事や専門書の図表をそのまま載せたいと考えたりする場面は多いはずです。結論から言うと、これらを保健だよりに載せる場合は、基本的に著作権者への許可が必要と考えられます。
▶ 動画では2:34〜で詳しく解説しています
重要なのは、学校全体や保護者に配る保健だよりは、第35条が対象とする「授業の過程」には当てはまらない可能性が高いという点です。保健だよりは授業の範囲を超えた広報物とみなされるため、授業のための例外ルールはそのままでは使えません。
ただし、許可を得なくても第32条の引用の条件を満たせば、記事や図表を掲載できる可能性があります。引用として認められるには、次の条件を満たす必要があると考えられます。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ①必然性 | その情報を載せるどうしても外せない理由があること |
| ②主従関係 | 自分の文章が主役で、引用する他人の文章は脇役という関係になっていること |
| ③明瞭区分 | 自分の文章と他人の文章の境界がはっきり区別できること |
| ④出所明示 | 本の名前・著者名などの出典を明記すること |
| ⑤公表済み | すでに公表されている著作物であること |
| ⑥改変しない | 引用する部分を勝手に加工・改変しないこと(トリミングや色の変更を含む) |
これらをすべて満たして初めて、許可なく引用の範囲で保健だよりに掲載できると考えられます。動画では主な4つを取り上げていますが、実際には「公表済みであること」「改変しないこと」も要件に含まれます。イラストのサイズを変える程度は問題になりにくい一方、一部を切り取ったり色を変えたりする加工は、注意が必要な場合があります。
とくに注意したいのが主従関係です。新聞記事の全文や図表だけを大きく載せる形は、自分の文章が主役とは言いにくく、引用として認められない可能性があります。一部の条件だけを満たしても引用にはあたらないと考えられますので、6つの条件をセットで確認していただければと思います。
▼引用についての解説記事

保健室の掲示物や廊下の掲示は、なぜ第35条の対象外になりやすいのですか
保健室の前に手洗い方法を説明したキャラクターイラストを貼ったり、睡眠の大切さを伝えるニュースの切り抜きを貼ったりすることもあると思います。この掲示物についても、第35条(授業の利用の範囲)からは外れてしまう可能性があります。
▶ 動画では4:43〜で詳しく解説しています
理由は、廊下や保健室が不特定多数の児童生徒・教員、時には保護者も目にする場所だからです。特定の授業の中でその時間だけ児童生徒に見せるという第35条の性質とは、扱いが異なります。長時間にわたって多くの人の目に触れる場所に貼るものは、授業の例外ルールの対象にならない可能性があります。
また、ポスターのようにイラストだけを大きく貼るという使い方は、先ほどの第32条の引用条件(主従関係や明瞭区分など)を満たすことも難しくなる可能性があります。掲示物を作成する際は、この点に十分注意していただければと思います。
なお、保健委員会などの委員会活動は、特別活動として「授業」に含まれると整理されています。そのため、委員会の活動として資料を作る場面と、できあがった掲示物を廊下に貼る場面とでは、扱いが変わる可能性がある点にもご注意ください。
健康教育の授業スライドやワークシートは第35条が適用されますか
学級活動や保健体育の授業、保健委員会などで自作の資料を使ってお話をする場面は、まさに第35条が定める「学校の授業の過程」そのものです。そのためこの場面には、第35条のルールが適用されると考えられます。
▶ 動画では6:01〜で詳しく解説しています
ポイントは、第35条は「授業ならすべてOK」という規定ではないという点です。授業を受ける児童生徒の人数分であれば、市販の本の一部のコピーやインターネット画像を、資料として配布できる場合があります。ただし部数だけで決まるわけではなく、公表された著作物であること、授業に必要と認められる限度であること、著作権者の利益を不当に害しないことも要件になります。
たとえば児童生徒が全員購入して使うことを前提としたドリルや問題集を、人数分コピーして配ることは、本来の販売を妨げるため認められないと考えられます。保健の授業で市販教材を使う場面では、意識しておきたいポイントです。
また、学校の設置者(公立校であれば教育委員会、私立校であれば学校法人)がSARTRAS(一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会)に補償金を支払っていれば、そうした資料をGoogleクラスルームなどにアップロードすることもできると考えられます。支払いは設置者が行うものですので、自校が対象になっているかは設置者にご確認ください。教育現場で円滑に指導を行うために、法律で認められている例外規定です。
ただし、ここには注意点があります。授業の資料であっても、それを学校のホームページに載せて誰でも見られる状態にしたり、ダウンロードできるようにしたりすることは、別のルールが適用されます。第35条が想定する「授業の範囲」はあくまで受講する児童生徒だけです。ホームページに掲載すると授業以外の人も見られる状態になるため、許可が必要になると考えられます。
迷ったときにおすすめの方法
このように、同じイラストを使う場合でも、保健だよりなのか掲示物なのか授業の資料なのかによってルールが変わります。
▶ 動画では7:46〜で詳しく解説しています
安心して情報発信を行うためには、教育委員会や自治体などが提供する公式の教育用素材集を積極的に使う方法がおすすめです。また、文部科学省や厚生労働省などの公的機関が「自由に配布してよい」と明記しているパンフレットの画像を使うのも一つの方法です。
大切なのは、公的機関の資料にも条件があると知っておくことです。国や地方公共団体が住民への周知を目的として発行した広報資料などは、転載を禁止する表示がある場合を除き、説明の材料として転載できると定められています(著作権法第32条第2項)。ただし資料の中に第三者のイラストや写真が含まれている場合は、その部分について別途確認が必要になることがあります。出所を明示したうえで活用していただければと思います。
こうした著作権の問題を校内研修で体系的に扱いたい場合は、研修テーマの一覧もご覧ください。
▼保健だよりの著作権についてさらに詳しく


できること・できないこと早見表
| 場面 | 関係する条文 | 無許可での掲載 |
|---|---|---|
| 保健だより(イラスト・記事) | 第32条(引用) | 引用の要件をすべて満たせば可能性あり/原則は許可が必要 |
| 保健室・廊下の掲示物 | 第35条の対象外の可能性が高い | 難しい可能性が高い |
| 授業のスライド・ワークシート(配布) | 第35条 | 必要と認められる限度なら可能/市販のドリル・問題集は対象外 |
| 授業資料をGoogleクラスルーム等へ | 第35条(公衆送信) | 設置者がSARTRASへ補償金を支払っていれば可能 |
| 授業資料をホームページに掲載 | 第35条の範囲外 | 許可が必要 |
よくある質問
Q. フリー素材サイトのイラストなら、保健だよりに自由に使えますか?
A. サイトによって利用規約が異なるため、保健だよりでの使用が許可されているかを個別に確認する必要があると考えられます。「フリー」という表記だけで判断せず、利用規約を確認することをおすすめします。素材サイトごとの確認方法は、学校で安心して使えるイラスト素材の著作権ルールで詳しく解説しています。
Q. 保健だよりと掲示物では、なぜ扱いが違うのですか?
A. どちらも第35条の「授業の過程」には当てはまりにくい点は共通していますが、掲示物は不特定多数が長時間目にする点で、引用の条件(主従関係など)を満たすことがより難しくなる可能性があります。
Q. 授業で使った資料を、学年だよりやホームページに転用してもよいですか?
A. 授業の中で第35条により使えた資料でも、ホームページなど授業の範囲を超えて公開する場合は別のルールが適用されると考えられます。転用の際はあらためて許諾の要否を確認することをおすすめします。
まとめ
保健だより、保健室の掲示物、健康教育の資料——いずれも、児童生徒や保護者のために一生懸命作られるものです。だからこそ、著作権のトラブルに巻き込まれないよう、出す場所・目的・対象を確認しておくと安心です。いたずらに恐れるのではなく、原則に則って判断していきましょう。
※本記事は、文化庁「著作権テキスト」(令和7年度版)、著作物の教育利用に関する関係者フォーラム「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)」および同「初等中等教育における特別活動に関する追補版」(2021年11月)、公益社団法人著作権情報センター(CRIC)発行資料(2025年)をもとに作成しています。
養護教諭の皆さん向けの研修もお受けしています。研修の内容・形式・費用の考え方、よくある質問は研修のご案内にまとめています。
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この記事は、動画「養護教諭の著作権|保健だより・掲示物・授業資料の違い」をもとに作成しました。

