部活動の地域展開が全国で進むなかで、「これまでの著作権の扱いはそのまま続けられるのだろうか」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、地域展開によって著作権法第35条の前提がどう変わり得るのか、楽譜の複製やコンクール出場ではどこに注意が必要なのか、演奏会・配信・練習用音源といった場面別の論点までを整理します。教育委員会や地域クラブのご担当者、学校の顧問の先生が、移行の前に確認しておきたいポイントをまとめました。
部活動の地域展開とは
部活動の地域展開とは、これまで学校が担ってきた部活動を、地域のクラブや団体が担う形へ広げていく取り組みのことです。2025年の最終取りまとめで、それまで「地域移行」と呼ばれてきた取り組みが「地域展開」という名称に改められました。著作権のルールそのものが変わるわけではありませんが、運営主体や活動の目的が変わることで、適用される法律の特例や前提条件が変わる可能性があります。
学校著作権ナビゲーターとして研修に伺うと、「学校の部活動で当たり前に行ってきた運用は、地域クラブでも同じようにできるのでしょうか」という不安の声をよく耳にします。大切なのは、変わる部分と変わらない部分を分けて考えることです。
地域クラブになると著作権法第35条はどうなりますか?
結論から申し上げると、運営主体がどのような組織形態かによって扱いが分かれると考えられます。一概に断定はできません。
著作権法第35条と部活動の関係
学校の授業や部活動では、著作権法第35条(学校その他の教育機関が授業の過程で著作物を利用できることを定めた規定)が関係してきます。これは、授業の過程で著作物を複製したり、公衆送信したり、配信されているものを教室のモニターなどで見せたりすることが、一定の条件のもとで認められる例外の規定です。
そして学校の部活動は、第35条の運用指針のなかで、授業に含まれる例として挙げられています。
▶ 動画では1:52〜で詳しく解説しています
▼著作権法第35条で何ができるのか

運営主体が学校から離れると前提が変わります
地域クラブの運営主体は、自治体・スポーツクラブ・民間団体などさまざまです。第35条は、学校その他の教育機関が授業の過程で著作物を使うことを前提にした規定ですので、運営主体が学校から離れると、この条件を満たさなくなる場合があります。
また、この規定は運営主体さえ満たせばよいというものではなく、必要と認められる限度であることや、著作権者の利益を不当に害しないことも条件とされています。学校のままであれば何でも自由に使える、というわけではない点は、あわせて押さえておきたいところです。
一方で、公民館や生涯学習センターなどの社会教育施設は、著作権法上の教育機関にあたる例として挙げられています。そして、その施設が自らの事業として主催する講座や講演会などは、授業にあたる例とされています。施設を会場として借りているだけの場合とは前提が異なりますので、自分たちがどちらにあたるのかを確認しておくと安心です。
重要なのは、一概に断定せず、どのような組織形態で活動するのかを個別に見極めることです。
演奏そのものは第38条で判断します
なお、演奏会などで演奏すること自体は、著作権法第38条という別の規定で判断されます。こちらは学校であるかどうかは関係ありません。
| 内容 | |
|---|---|
| 変わらないこと | 著作権のルール(法律)そのもの 演奏の可否を判断する第38条の考え方(学校かどうかは関係しない) 楽譜は演奏する人数分を購入するという前提 |
| 変わる可能性があること | 第35条の前提となる「教育機関が授業の過程で使う」という条件 授業目的公衆送信補償金の仕組みを支える「設置者」の存在 著作権の手続きを行う主体 |
なお、部活動の地域展開について国が示しているガイドラインには、現時点で著作権の扱いに関する記載は見当たりません。制度の整備が進むなかでも、著作権については、それぞれの現場が既存のルールに当てはめて判断していく場面が当面続くと考えられます。
楽譜のコピーは地域クラブでもできますか?
楽譜には、他の著作物とは少し違う事情があります。
楽譜は「人数分の購入」が前提です
楽譜コピー問題協議会(いわゆるCARS)や楽譜の各出版社は、楽譜について見解を出しています。楽譜は、演奏する人数分が購入されることを前提に販売されています。そのため、一部だけを購入してコピーで代用するという行為は、著作権者の利益を不当に害することになると考えられています。
なお、改正著作権法第35条運用指針でも、部活動で使われる楽譜は、著作権者の利益を不当に害する可能性が高い例として挙げられています。
したがって、学校の部活動であっても、購入の代わりにコピーをするという場合には、著作権者や出版社などの許諾が必要とされています。
また、紙のコピーだけでなく、楽譜のデータをクラウドで共有したり、メールやチャットで送ったりする場合も、同じように許諾が必要になると考えられます。手続きの窓口が紙と電子データで分かれている場合もありますので、あわせて確認しておくと安心です。
▼歌詞を配布するときの考え方

許諾を取る手順
- まず楽譜の出版社に相談する
- JASRACなどの管理団体が管理している楽曲であれば、JASRACなどの窓口で手続きをする
いたずらに恐れるのではなく、正規の手順を知っておくということが大切です。
▶ 動画では4:02〜で詳しく解説しています
コンクール出場時と地域クラブでの利用
外部のコンクールに出場する際の審査用楽譜の提出、また地域クラブでの楽譜の利用についても注意が必要です。学校の部活動として行うのか、地域クラブとして行うのかによって前提が変わることがあります。また、コンクールでのコピー利用の扱いについては、出版社やコンクールの主催団体ごとに見解や対応が異なる場合があります。
ポイントは、必ず関係する楽譜出版社の利用規約やガイドラインを確認することです。楽譜の複製について何と書いてあるか、一度きちんと読んでみましょう。
こうした著作権の問題を校内研修で体系的に扱いたい場合は、研修テーマの一覧もご覧ください。
場面別に見る地域展開の著作権の論点
活動の場面ごとに、どのような手続きが必要になるかを事前に確認しておくと安心です。
定期演奏会・発表会を行う場合
先ほど触れた著作権法第38条では、すでに公表されている著作物であることに加えて、非営利・無料・無報酬という条件がすべて揃えば、許諾を得ずに演奏できるとされています。
入場料を取る場合や、指導者に謝金を渡す場合は、報酬と見られる可能性がありますので、判断が難しくなります。迷う場合は、あらかじめ確認しておくと安心です。
SNSや動画配信サイトに演奏動画を投稿する場合
インターネット配信には公衆送信権という権利が関わるため、プラットフォームの許諾状況や個別手続きの要否を確認する必要があります。
なお、授業の過程で行う公衆送信(オンラインでやり取りをする場合)には、学校の設置者が授業目的公衆送信補償金をSARTRAS(サートラス)に支払っていることが前提になります。地域クラブには、この設置者にあたる存在がない場合もあるため、同じ仕組みがそのまま使えるとは限りません。
▶ 動画では7:13〜で詳しく解説しています
▼授業目的公衆送信補償金とSARTRASの仕組み


練習で音源を使う場合
市販の音源をそのまま流して聴く分には、通常は問題になりません。ただしこれも、先ほどの非営利・無料・無報酬という考え方が前提になります。会費や指導者への報酬がある形態の場合は、念のため確認しておくと安心です。
その音源をコピーしたり、動画のBGMに使ったりする場合は、作詞者・作曲者だけではなく、レコード会社などの許諾も必要になります。
そうすると、これらの著作権手続きを行う主体を明確にしておくことも重要になります。
▼合唱コンの練習で練習用音源を共有するときの注意点

地域展開の前に確認しておきたい3つのこと
- 運営形態を把握する ── 自分たちの地域クラブがどのような運営形態なのかを確認します
- 費用を予算に組み込む ── 楽譜や教材の正規購入費用、著作権処理の費用をあらかじめ予算に入れておきます
- ルールを共有する ── 運営組織・自治体・指導者・教員の間で、ルールを共有しておきます
▶ 動画では8:38〜で詳しく解説しています
まとめ
今回は、部活動の地域展開における著作権の注意点を整理しました。著作権のルールそのものが変わるわけではありませんが、運営主体が変わることで、第35条の前提や手続きの主体が変わる可能性があります。
環境の変化のなかでも、正しい知識を持ち、必要なガイドラインや規約を確認しながら進めることで、子どもたちが安心して活動できる環境をつくることができます。法律の解釈や各社の規約に迷ったときは、関係機関や出版社に問い合わせて確認することをおすすめします。地域展開は、これからが本番です。
よくある質問(FAQ)
Q. 地域クラブになると、著作権法第35条は使えなくなりますか?
A. 一概には断定できません。第35条は学校その他の教育機関が授業の過程で著作物を使うことを前提にした規定のため、運営主体が学校から離れると条件を満たさなくなる場合があります。一方で、公民館や生涯学習センターなどの社会教育施設は教育機関にあたる例とされ、その施設が自らの事業として主催する講座や講演会などは授業にあたる例として挙げられていますので、自分たちの組織形態がどちらにあたるのかを個別に見極めることが必要だと考えられます。
なお、地域展開について国が示しているガイドラインには、現時点で著作権の扱いに関する記載は見当たりません。
Q. コンクールの審査用に、楽譜のコピーを提出してもよいのでしょうか?
A. 出版社やコンクールの主催団体ごとに見解や対応が異なる場合がありますので、関係する楽譜出版社の利用規約やガイドラインを必ず確認してください。学校の部活動として行うのか、地域クラブとして行うのかによっても前提が変わることがあります。
Q. 練習で市販の音源を流すのは問題がありますか?
A. 市販の音源をそのまま流して聴く分には、通常は問題になりません。ただし、非営利・無料・無報酬という考え方が前提になりますので、会費や報酬がある形態の場合は確認が必要です。また、その音源をコピーしたり動画のBGMとして使ったりする場合は、作詞者・作曲者だけでなくレコード会社などの許諾も必要になります。
著作権研修・出前授業のご依頼を承っています。研修の内容・形式・費用の考え方、よくある質問は研修のご案内にまとめています。
この記事は、動画「部活動の地域展開で著作権はどう変わる?第35条と楽譜コピー」をもとに作成しました。

